THIRD DAY

 再び私たちは車をスタートさせ、ローヌの谷底の「R9」を東へ、ヴァレーの州都、シオンに向って走り出しました。「R9」は本当に真っ直ぐな道です。ラウンド・アバウトが無ければ寝てしまいます。まさに延々と続く一直線の道でした。
 しかし、いいかげんラウンド・アバウト毎に止まらなければならないのがダルくなってきたので、高速に乗る事にしました。すぐに、高速道路の標識が出てきたので、私はそちらにハンドルを切りました。久しぶりに走る(そんな風に感じました)高速道路「N9」は流石に快適です。

 左前方の曇り空の広いローヌの谷底に、シオンのシンボルとも言える二つの丘が見えてきました。この頃には太陽が少し顔をのぞかせていました。陽射しが少しまぶしくなっています。シオンには高速の出口が二つありましたが、私は久しぶりに見る二つの丘に見とれていて(危険ですから真似しないで下さい)ひとつ目を通り過ぎていました。私たちは二つの丘を左に見ながら近代的な橋を渡り、二つ目の出口から高速を降りました。
 「シオン市街」の標識に従い車を走らせると、すぐに国鉄の陸橋を渡りシオン市街地に入りました。結果的に二つ目の出口を出て正解だったのかも知れません。流石にヴァリスの州都です。交通量も多く、少し緊張しました。どこかに車を停めなければ…。大きな交差点を渡り、ラウンド・アバウトを越えましたが、そこから右に出る道の先に「P」のマークを発見。
「駐車場があった。」
すぐに次のラウンド・アバウトをグルっと回ってUターンし、その駐車場に向いました。ラウンド・アバウトはこういう事(Uターン)が簡単に出来るので便利です。
 駐車場の入口で駐車券を取り、スロープを降りて地下駐車場に入りました。そんなに多く車は停まっておらず、どちらかと言うとガラガラ状態でした。お昼前のAM11:30という時間を考慮しても、日本の都市部の駐車場では考えられない事ですね。

 階段から地上に出ると、そこは二つの丘のひとつ、ヴァレール丘の直下でした。丘といっても小高い岩山のようで、目の前に岩壁がどーんとそびえています。私たちの反対にある岩壁正面の道路の建物は、右側と左側の趣がまるで違っていました。右側は中世の香りが色濃く残る建物、左側は近代的な建物となっており、ちょうど旧市街と新市街との境になっていました。
 私たちは市の中心部に向って旧市街側の裏路地に入って行きました。ルネサンス様式で建てられた白い市庁舎(私のガイドブックにはオレンジ色となっていますが、最近、塗りかえられたのでしょう)のある旧市街は、ヴァレー州都の中心部にもかかわらず落ち着いたたたずまいを見せていました。決して静かとは言えませんが、都会の雑踏のような慌ただしさ等とは無縁の落ち着きを持っていました。道行くOLの姿も、どこか上品に見えます。
 市庁舎のほぼ前にある文房具店の前で売られている絵葉書を物色していると、市庁舎からお昼の12時を告げる鐘が鳴り響きました。ヨーロッパの鐘の音は、いつ聞いてもいいものです。

シオン市街地(中央やや左に市庁舎)

 私たちは絵葉書を買った後、市庁舎近くの路地から、二つの丘に向って伸びる坂道に入りました。
 急な坂道沿いの情緒ある建物は、1階と地階がハッキリしません。坂を登っていくと1階だった階は地下に入ってしまっているからです。面白いものだなと思いました。息を切らして200mほど歩くと、そこに駐車場が現れました。
「なんや、ここまで車で来れば良かった…。」
と、思いましたが、別にさっき停めた駐車場で良かったのです。結局、旧市街を観光するのですから何処に停めても同じです。
 この駐車場から右に上るとヴァレール教会、左に上るともうひとつのトゥルビヨン丘の上に建つトゥルビヨンの城へと、それぞれ道が続いています。私は以前にもこのヴァレール教会を訪れた事があったので、トゥルビヨンの城の方へ行きたかったのですが、両親がここは初めてでしたので廃城よりも古い教会のほうが見ていて楽しいだろうと思い、右の道を選びました。
 こちらのほうがトゥルビヨン丘よりも低いという事もありました。少し高齢の両親には、ヴァレール丘でも結構堪えたようです。登山やトレッキングをされている方には何でもない所でしょうが…。
 この駐車場からは坂道というより、もう階段です。両親に合わせ、かなりのローペースで登りました。階段が終わり平坦になると、教会の少し下にあたるそこに小さな石造りの古びた礼拝堂がありました。ここからトゥルビヨンの城の方を見ると、二つの丘の間にもブドウ畑があるのが分かります。山ばかりで農地の少ないスイスでは当たり前の事なのでしょう。

石造りの礼拝堂とトゥルビヨンの城

 見た感じ、城塞のようなヴァレール教会は12世紀に建てられ、ロマネスクやゴシック様式が混在しています。スイスで最も古いという1883年に造られた歴史民俗学博物館が併設されていて、武器や家具などが展示されているそうなのですが、いつも私が行く時は運悪くお昼休みで、中には入っていません。

 教会からの眺めも格別で、西にはシオン市街がローヌの谷に広がっている様子が手に取るように見え、南はローヌ川と緑の山の斜面にへばりつくように見える山岳道路が左右に伸び、東はローヌの谷が何処までも続いているのが薄靄(もや)に霞んで見えていました。北にはトゥルビヨンの城がこちらを見下ろしています。今度、またシオンを訪れたなら、きっとトゥルビヨンの城に登ろうと思います。

 丘を降りて市庁舎のある通りを渡り、路地に入ると右手に石造りのカテドラル、ノートルダム・デュ・グラリエ教会が見えます。教会の前は広場になっていて、緑豊かな木々が植えられ、一角にはもうひとつ別の教会、聖テオデュル教会がありました。その広場を横切り、駐車場を突っ切るとリッツ通りに面して、真ん中の少し膨らんだような形をした「魔女の塔」があります。
 友人にその写真を見せたところ
「まさに"魔女の塔"って感じがする。」
と彼は言いました。確かに、魔女が帽子をかぶったような形の屋根になっています。いつの頃から「魔女の塔」と呼ばれるようになったのかは分かりませんが、中世の市街壁の一部だったそうです。
 1990年に訪れた時には、リッツ通りから来たので、塔の裏側(どちらが表なのかは知りませんが…)は見ませんでしたので、新鮮な感じがしました。

 旧市街に戻ってきた私たちは、もう1時を過ぎていたので、とてもお腹が空いていました。ローザンヌ通りに面して1軒のお肉屋さん(だったと思います。)があり、そこで好きなトッピングでサンドイッチを作ってくれていたので、軽くそれで昼食を済ませる事にしました。
 ヨーロッパのサンドイッチの多くは、日本で言うフランスパンに具をはさんだ物が主流で、勿論ここの物もそうでした。ここのサンドイッチはトッピングの数によって値段が違いましたが、私たちは4SFR(スイスフラン)のを頼みました。少々お高いです。
 買ったサンドイッチを頬張りながら、駐車場まで歩きます。両親も日本では決してこんな事はしないだろうと思いました。旧市街にあるレストランで食事をしている人を見て
「レストランにすれば良かったかな…。」
と思ったりもしましたが、この後も車にしばらく揺られるのだから食事は軽い方が良いと考えました。特に、車に弱い母はたくさん食べたりしない方が良いでしょう。(夜に御馳走を食べよう!)

 駐車場の人間用の出入り口に自動料金支払い機があり、駐車券を入れると料金が表示されました。なんと、たったの0.5SFR!や、安い!2時間余り停めていてこの値段(約35円)とは!ジュネーヴの旧市街で、友人が1時間2SFRという駐車場の料金を見て、高いと言っていたのが分かりました。

市街地からのヴァレール丘教会

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